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2023/03/22

まなびおおさか「ステイホーム応援第九弾」中河吉由樹さんの       「My partnerʼs holiday 相棒たちの休日~表具師の道具~」十一回目 打ち刷毛 

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まなびおおさか「ステイホーム応援第九弾」

京都府在住中河吉由樹さんの

「My partnerʼs holiday 相棒たちの休日~表具師の道具~」

第十一回目は打ち刷毛の第一回目です。

 

My partnerʼs holiday

相棒たちの休日~表具師の道具~  

        ⑥打ち刷毛

         京都市在住 中河吉由樹

今回は掛け軸の制作には欠かせない打ち刷毛をご紹介したいと思います。

簡単に掛け軸の説明をすると、作品となる本紙に裂地を廻して、巻いたり、広げて飾ったりする ものです。

当たり前と言えば当たり前なのですが、何が難しいかと言えば、「巻いたり、広げたり」の部分 です。

掛け軸が世の中に出現する前は、巻物しかありませんでした。

巻物は名の如く「巻く」ことに特 化したものであり、広げてもクルッと巻き戻ってしまいます。

そのために、博物館では罫算や文 鎮で押さえて展示されています。

どのようにして、巻物から掛け物へとイノベーションが起こったのでしょうか?

ここからは私の推測でしかないので、ご了承いただきますようお願い致します。

昔々あるところに、この巻物を壁に掛けることはできないかと考えた人がいました。

その人は、楮紙や雁皮紙など調子の強い紙で裏打ちする巻物に、

もっと柔らかいティッシュのよ うなもので裏打ちしてみたらどうなるか、と考えました。

かの清少納言(枕草子の筆者)も曰く、

「鼻をかむときには、吉野の美須紙が最高よね、鼻が痛くな らないし」 という話が残っているように、

当時の高級ティッシュは、吉野産の美須紙でした。

この紙は、胡 粉を混ぜて漉いた紙です。

早速その人は美須紙に糊をつけてみましたが、濃い糊はとてもつけることができませんでした。

「では、もっともっと薄い糊でつけてみよう」 今度は糊をつけることはできたのですが、

薄いがためにひっつきません。

「あれまー、そうしたら、叩いたらひっつくかのー」 というわけで、

今度はごく薄い糊をつけた美須紙を裏打ちして、その上からトントン叩いてみまし た。

すると、なんということでしょう!

広げたらクルッと巻いてしまう巻物が、巻き戻らなかったの です。

それからさらに、糊をわざと腐らせて接着力を弱めたり、石粉を混ぜて漉いた宇陀紙を用いた り、

といろんな改良を加えられて、見事に巻物から掛け物へのイノベーションが起こったのさ。

昔話風に語ってみましたが、何も一人の方がイノベーションを起こしたわけではなく、

多くの先人 たちの工夫があったのだとは思います。

何はともあれ、このイノベーションによって、「叩く」道 具が必要になって、

登場したのが打ち刷毛ということなのだと思います。

この打ち刷毛というのは、掛け軸においての増し裏、総裏の作業にしか使用しません。

増し裏というのが、美須紙での裏打ちです。

また総裏というのが、宇陀紙での裏打ちになります。

今回はいかがだったでしょうか?

打ち刷毛は表具師の命だと言われたりもします。

お値段もさることながら(10万円以上!)、 これがなければ掛け軸を制作することはできません。

また説明の仕方を色々と考えて、わかりやすくご説明していこうと思っていますので、

今後ともよ ろしくお願い致します。

 

 

写真は、長年愛用している打ち刷毛です。

毛はヤシ科の黒 嗣(くろつぐ)の葉鞘で、津久毛(つくも)と言 います。

特厚サイズですので、かなりの重量で す。

これでトントン叩くのですが、作業が終わる 頃には握力がなくなってきます。

掛け軸の作業で は、総裏の作業が一番体力を使います。

糊が乾く とダメなので、夏もクーラーは使用できません。